健康とは何かを正確に定義することは不可能です。ただ、たいせつな
ことは、健康と病気とを完全に分離して考えてはならないということです。
このことは、一般に、健康と病気をひとつのスペクトル(成分ごとの大小
に従って配列したものの)であらわすという方法でとらえられます。

健康と病気を、白色(健康)から黒色(病気)までの連続的な色とみなすのです。日常みられるさまざまな疾患はこの二色の間に存在する無数の色によってあらわされます。つまり、白と黒の中間の色である灰色が、白に近いものから黒に近いものまで、無数の段階があるのです。これを数字であらわしてみると、 0%から100%の範囲で段階づけることができます。つまり、完全な健康を一端(0%の病気)とし、典型的な病気の症状を示すものを他端(100%の病気)にあると考え、身体の状態(健康と病気の程度)を0%から100%のあいだの範囲のスペクトルで示すのです。この健康と病気のスペクトルは、 身体全体の状態を示すばかりでなく身体の各部分や各病気の程度を示すこともできます。
ここでとりあげる歯周病についても、完全に健康な歯ぐきや、歯根膜歯槽骨の状態(0%の病気)から、典型的な歯周病のあるもの(100 %)の範囲のスペクトルで示すことができます。
歯周病というのは、歯根膜、歯肉、歯槽骨など、歯をとりまく組織(歯周組織)におこる病気の総称です 歯周病には、歯ぐきに炎症のおこる歯周炎と、みなさんがよくごぞんじの恐しい歯槽膿漏とがあります。
歯と歯肉のあいだにたまった歯垢 (細菌がたべかすや砂糖をとり入れて繁殖し、ネバネバしたもの、プラークともいう)が歯肉をおかしていったり、細菌に感染したり、咬合(歯のかみあわせ)が悪いために、不必要な大きな力が加わって歯周組織を痛めつけたりする結果、歯肉炎や歯槽膿漏がおこるのです。
まず、歯肉のへりが赤く腫れ上りさわると出血しやすくなります。これが炎症です。歯肉が腫れると上にのびてきて、歯と歯肉のみぞが深くなります。みぞが深くなると、そこに歯垢(プラーク)がたまりやすくなります。この溝をポケットといいその名のとおり、ものが入りやすくなっているので、歯垢(プラーク) はポケットの奥へ入りこみます。すると歯と歯肉がはがれ、歯肉は腫れて上へものびますから、ポケットの深さは上にも下にものびて、ついには、歯を支えている歯槽骨にまで達します。そして骨を溶かしはじめ、その結果、歯がグラグラ動き出すのです。これが歯槽膿漏の症状です。歯槽膿漏が進行し、スペクトルで黒い部分つまり100%の病気のところへくると、歯が抜け落ちてしまいます。しかし、そこへ至るまでの各症状は灰色の段階で示されます。

内因 X 外因 = 病気の程度
歯周病の程度は、さまざまな要因によって決定されますが、それは二つに分けることができます。
歯垢や歯石その他の口腔内の環境と、栄養障害や、全身的な疾患など全身的、内因的な要因です。口腔内の歯石は歯周病の一つの誘因ですから、歯石を除去することによって、歯肉の状態が改善されます。それと同時に、歯周病は、全身的な要因と深いかかわりがあるのです。このことを忘れて、単に口腔内だけの局所的な療法のみを行っていても歯周病を完全に治療することはできないでしょう。
口腔内の病気には、口腔内という局所的な環境要因とは別に、全身的内因的な要因が、健康と病気の根源に大きな役割を果しているのです。いいかえれば、外因性(局所的)要因と内因性(全身的)要因との相互作用によって、歯周病が誘発されるのです。
歯周病をひきおこす外因的(局所的)要因には、歯垢、歯石、不適合な補綴物による外傷、歯の叢生、咬合異常、偶発事故、感染などがあり、内因的(全身的)要因には、遺伝的 素因、栄養障害、糖尿病のような全身疾患、妊娠などによる内分泌変調精神的肉体的条件などがあります。
このことから、病気の0%から100%のスペクトルを次のように示すことができます。
内向的要因の程度をA、外因的要 因の程度をBとし、A×B=C、このCが、歯周組織の健康または病気の程度を示します。A、B、それぞれの程度は0から2の段階であらわします。「このように、口腔内の環境がよくても、内因的な要因があれば、歯周病はおこる可能性がありますし、口腔内の環境が悪くても、身体全体の状態がよく、内因的な要素がなければ、歯周病は小さな程度ですみます。
この、歯周病の要因と歯周病について、J・M・メイ博士は、次のような概念であらわしました。「それは、ちょうど、3種類の人形のようなものである。一つはガラス製、もう1つはセルロイド製、他の1つは金属性。それぞれをハンマーで、3つとも同じ強さでたたくと、ガラスの人形はすぐにこわれるし、セルロイドの人形は少し傷がつくが、金属性の人形は美しい音色を奏でる。このハンマーは、口腔内の有害な環境に相当し、人形の構造は全身の内 因的な抵抗力を反映している。」
つまり、同じような刺激が与えられても、内因的な抵抗力が強ければ その刺激をはねかえしていくことができるのです。私たちも、この金属人形のような強い身体にしたいものです。


ビタミンCは抵抗要因
さて、このような、内因的抵抗力を高めるものとして重要なのが、ビタミンCです。 一般に、ビタミン類は、身体の回復維持および発育に必要な本質的な反応を助長する化合物です。ビタミンは、代謝に密接な関係があるのでいろいろな面で、全身の健康と機能に大きな影響を与えます。ビタミンは、身体の中で、病気への抵抗要因 としての役割を果すのです。 ビタミンCは、抵抗要因の中でも最も重要なものです。ある調査ではビタミンCを多くとっている地域、オレンジなど果物類の産地であるカリフォルニア州など西海岸の地域では、他地域と比べて病気にかかる率が低いという結果が出ています。
傷の回復にビタミンCが効果があることはよく知られています。モルモットを使った実験によると、ビタミンCを与えると、モルモットの傷の治療時間が、ビタミンを与えない場合の約三分の一に短縮されました。
歯の治療は、必ず外科的な損傷を伴っています。口の中はスケーラー用には作られていないのですから、いくら手早く上手にスケーラーを使っても、どこか傷ついています。歯を磨いたり、削ったりすること自体が外科的な処置なのです。ですから、このような意味からも、歯科において、ビタミンCが重要なものであるといえます。
また、ビタミンCは、抗生物質としての働きをもっているといわれています。カゼに対するビタミンCの果す役割については、すでに研究がなされていますが、ビタミンCは、ストレプトマイシンなどの抗生物質の代用となるといわれています。現代人に多くみられるコレステロールも、ビタミンCをとることによってそのレベルをコントロールするのを助けることができます。今後、ガンとの関係などについても、研究がなされることでしょう。
さらに、ビタミンCは、精神的ストレスに対しても効果があります。モルモットを使った実験を行ってみました。モルモットをカゴに入れて絶えず仰さぶり続けて、落ち着く間を与えず、ストレスを与え続けるのです。すると、このモルモットのビタミン摂取量が増えるのです。
最後に、ビタミンCが不足すると壊血病になると昔から言われています。ところが、今日では、壊血病などというものはもう存在しないと考えられているのです。しかし、そうではありません。壊血病は今日も存在するのです。壊血病を古い概念だと考えるために、壊血病の症状を理解せず、適切な治療を行っていないことが案外多いのです。

壊血病というとあまり一般的でなく、我々の日常に関係がないと思われるかもしれませんが、多くの女性が、この初期的な症状をもっているのです。「朝起きたときにあざができているとか、あざができやすい、出血しやすいということはないでしょうか。 いろいろな機会に統計をとってみる と、女性の約50%がそのような症状をもっています。このような症状も、ビタミンCを投与する治療を行えば、約一週間で、半数の人が出血が少くなったり、全くなくなったりします。ですから、ビタミンCの欠乏という問題について、今日もっと多くの関心をもつ必要があると思われます。


ビタミンCで歯垢が減る
カリフォルニア州ハリウッドにある歯科医院で、次のような調査を行ました。ここは大きな歯科医院で歯科衛生士が一五人もいます。私たちは、歯の清掃をしてもらうために 歯科衛生士たちのところへ、ある患者グループを送りこみました。歯科衛生士たちには、この実験が行わていることを知らせていません。その方が、意識せず、ふだんと同じように仕事をしてくれるからよいわけです。
歯科衛生士たちが、ふつうに歯を清掃し、磨くのにどれくらい時間がかかるかを測定します。次に、数週間にわたって毎日ビタ ミンCを与えてきた患者のグループを同じ歯科衛生士たちのところへ送りこみました。そして、歯の清掃時間を測定しました。
その結果、ビタミンCを与えられてきた患者の歯の清掃には、そうでない患者のときの半分しか時間がかからないということがわかったのです。つまり、ビタミンを大量に摂取していると、歯の汚れ、歯垢が非常に少いのです。

このことはまた別実験によっても証明されています。
血中のビタミンCの濃度を測定して、歯垢の量との関係を調べてみました。すると、血中のビタミンCの濃度が高くなるに従って、歯垢の沈着量が減少しているのです。「歯垢は、ここでお話している歯肉炎や歯槽膿漏などの原因となるばかりでなく、ムシ歯の原因でもあります。歯垢は、毎日の歯みがきやフロスを使った清掃でとり除くことができますが、ビタミンCを摂取していれば、歯垢の付着そのものが減少するのです。歯の清掃に時間をかけるよりも、はじめから歯垢が少なければどんなにらくで、清潔で、健康なことでしょう。歯の病気の元凶である歯垢をやっつける方法として、ビタミンCがあることはあまり知られていないと思います。
そして、もうひとつたいせつなことがあります。はじめにお話した歯周病の外科的(局所的)要因と内的 (全身的)要因を思い出してください。歯垢は、歯周病の外的(局所的)要因に入っていました。ところが、歯垢は、歯みがきやフロスでとり除くことができ、さらにビタミンCによって少なくすることもできるのです。このことから、外的要因が内的要因 (ビタミンC)によって左右されることがわかり、内的要因がどれほど大きな役割を果しているかがわかるでしょう。


ビタミンCは歯ぐきを健康にする
歯肉炎や歯槽膿漏のさまざまな症状とビタミンCとの関係はどうでしょうか。
この研究のために、警察官と消防署員を対象に調査を行いました。警察官と消防署員を選んだのは、彼らが、経済的に中級の階層に属するので、アメリカ人の代表的な存在であるという点、職業柄きちょうめんで約束を守ってくれるという信頼感がもてるので調査がやりやすい点、さらに、職業の性格上、彼らは健康であるという点です。少しでも病気があれば、警察官や消防署員はつとまりません。
彼らの血中のビタミンCの濃度を測定し、歯肉の状態、歯と歯肉のあいだの溝の深さ、歯が動きかけているか否か、その度合(歯の動揺度)について調べてみました。すると、ビタミンCの濃度の高い人は歯肉もピンク色でひきしまって 健康、歯と歯肉のあいだの溝も浅く、もちろん歯がグラグラしたりしている人もほとんどありませんでした。ビタミンCの濃度の低い人は、歯肉の状態も悪くて、色が濃く、腫れていたり、ちょっとさわっても出血したりする状態でした。歯肉が腫れているため歯と歯肉のあいだの溝も深く、歯槽膿漏のかなり進んだ状態を示す人もあり、歯がグラグラする度合も、ビタミンC濃度の高い人に比べるとかなり大きいものでした。
この中間にあたるビタミンC濃度の中程度の人は、歯肉の状態、歯と歯肉の間の溝、歯の動揺度もすべて中くらいでした。
以上のことから、血中のビタミンCの濃度と、歯肉の状態、歯と歯肉のあいだの溝の深さ、歯の動揺度など、歯ぐき全体の状態とのあいだに 相関関係のあることがわかりました。もちろん、ビタミンCだけが歯肉炎 や歯槽膿漏の原因となるものではありませんから、完全な相関関係とはいえません。しかし、この他にも多くの調査実験によって、ビタミンCが歯周病の症状と密接な関係があることが示されています。
ビタミンCを多くとっていれば、歯ぐきの状態もよいのです。ビタミンCばかりでなく、もちろんバランスのとれた栄養をとることは、歯ぐきを健康にします。歯ぐきが健康で抵抗力があれば、歯垢によっておかされたりすることもありません。先に引用したメイ博士の人形の例のように、金属製の人形であればハンマーでたたかれても、ビクともせず、 美しい音色を出すばかりなのです。

ここではビタミンCについてしかふれていませんが、炭水化物、蛋白質、ビタミン、ミネラル、その他の栄養素も、金属製の人形(健康な歯ぐき)をつくるのに大きな役割を果しています。


一日にどれだけ必要か
ビタミンCは一日にどれくらい必要なのでしょうか。 米国科学アカデミーの食物栄養委員会は、栄養に関する勧告を行っていますが、1974年の勧告では、 我々が健康を保つために必要なビタミンCの量は、1日わずかに45ミリグラムであると述べています。 ところが、この数字はあまり、現実的なものとはいえません。
そのことについて少しお話しましょう。
アメリカ人は、猿を宇宙ロケットに乗せて打ち上げて成功した後、人間を打ち上げました。我々は、猿が無事地球に帰ってきたのだから、人間でも成功するだろうと考えたのです。このように、私たちは、人間が 動物王国の一員であると信じています。
ところが、人間は、動物の中である特殊な部類に属しているのです。というのは、人間は、ビタミンCを体内でつくることのできない数少ない動物の中の一つだからです。大部分の動物は、ビタミンCを自らの体内で合成して作ることができるのです。
私たちは、1日のビタミンCの必要量を次のようにして算出しました。「モルモットの血管内に注射器を入れ、毎日のビタミンCの量を測定します。すると、モルモットが自分で生産しているビタミンCのあることがわかります。このようにして測定したビタミンCの量とモルモットの体重との関係を調べてみますと、常に体重と生産するビタミンC量とが 一定の割合で比例していることがわかりました。
羊について同様の実験を行いました。羊もまた自らビタミンCを生産する能力をもっています。羊がモルモットより多くのビタミンCを生産することは明らかですが、羊の場合にも、モルモットの体重とビタミン Cの比例と全く同じような比例関係を示したのです。 このことから、人間の体重を70キログラムとして、もし人間が体内でビタミンCをつくることができるとすれば、どれだけのビタミンCをつくらねばならないかを調べてみました。その結果、2350ミリグラム、約2500ミリグラムという数字が出ました。この数字は、アメリカの政府の勧告した数字と2ケタも違っています。
タバコはビタミンCを破壊しますから、喫煙する人はビタミンCを多くとらなければなりません。タバコ 1本は、最低25ミリグラムのビタミンCを破壊します。もし1日に10本タバコを吸うならば、250ミリグラム、20本ならば、500ミリグラムものビタミンCが破壊されているのです。
1日に30本、40本あるいは60本ものタバコを吸う人がたくさんいます。すると、他のことを全く考慮に入れずに、タバコだけを考えてみても、その人たちは、一日に500、750、あるいは1000ミリグラムものビタミンCが必要なのです。

その他、避妊用のピルなどもビタミンCを破壊します。いろいろな条件を考えて、吸収されるのは、摂取したビタミンCの70~80%であると考えてよいでしょう。
アメリカ人の食事の中でも、最も欠けているのがビタミンCです。日本でも同じようなことがいえるのではないでしょうか。


食事をくふうして
ビタミンCはどのようにして摂取すればよいのでしょうか。
アメリカでは、ビタミンCを錠剤でとっている人が多くいます。大量に確実にビタミンCをとるには、この方法がよいでしょう。
しかし、最も基本的には、食事から摂取することを考えなければなりません。毎日の生活の中で栄養のバランスのとれた食事をとることは歯や口の中ばかりでなく、身体と精神の健康にとってたいせつなことです。
ビタミンCを多く含む食品には、 パセリ、まっ茶、ほうれん草、ピーマン、大根の葉など黄緑色の野菜、いちご、グレープフルーツ、レモンなどの果物類があります。しかし、ビタミンCは、水に溶けやすく、熱によって破壊されてしまうので、調理のしかたも考慮に入れておかなければなりません。生で食べることが望ましいのですが、食品によっては調理しなければ口に入らないものもあります。酸や低温ではやや安定していますから、できるだけビタミンCを破壊してしまわないよう調理法もくふうが必要です。調理する場合は、鋼製器具を使うことは避けましょう。ビタミンCは、とりすぎても体内に貯えられることがないので、とりすぎによる副作用はありません。ビタミン剤を飲んだ方はよく御存知のように、尿中に余分な量は排せつされてしまうのです。ビタミンCの働きは、歯ぐきばかりでなく、身体全体にとっても必須の栄養素です。さきに述べたように血液の循環に大きな役割を果し、傷の回復や、精神的ストレスにもビタミンCの効果は大きいのです。
が、特に強調したいのは、それら身体全体に必要な栄養素をとり入れる入口である口、歯の健康を守るためにビタミンCは大きな役割を果していることです。つまり、ムシ歯や歯槽膿漏の原因である歯垢が少なくなり、歯ぐきの健康を守るのです。
ビタミンCを一日の生活の中で、どれくらいとっているのか、いちどチェックし、あなたの口の中ももういちどチェックしてみてください。

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